エリザベス女王-史上最長・最強のイギリス君主 (中公新書)

史上最長の在位年数、そして史上最高齢を更新する現在のエリザベス女王の評伝。今この瞬間、英国史上に残る大女王を私たちが目にしているということを知らしめる内容になっている。特に印象に残ったのは、日本からは見えにくい、コモンウェルスの首長としてのエリザベス女王の存在感の大きさ。そして、ダイアナ妃の死に代表されるような英国王室の危機に際して時に対応を誤りながら、それでも柔軟に軌道修正をはかり、時代に即した王室のあり方を先頭を切って示し続けるエリザベス女王の進取の気質である。英国の内政と外交、いずれにおいても極めて重要な役割を果たし続けてきたエリザベス女王。本書で強調されるのはその公務の激烈さである。日本でも皇室の公務負担の重さが議論となったが、コモンウェルスの首長として世界中を周るエリザベス女王の負担は輪をかけて重い。興味深いのは、この負担の重さを次世代では王室総体として分担しようとする軌道修正がどうやら図られようとしている点である。この次世代への移行については、本書の最後で言及されているが、そんな中で、ハリー王子とメーガン妃が王族から距離を置くことになった。時期的な制約もあって、この出来事について本書は最後に少しだけ言及したに留まる。存命の人物の評伝を書くことは逡巡したと「あとがき」に著者も書いているが、やはり存命中に評伝を書くと、そのまとめ方が難しい。